今すぐ全部を読まなくても良いので、今後の記事にこの考え方が登場したとき、都度立ち返ってもらえると幸いです。
「面白いクイズ企画・大会、クイズ番組は、どうして面白いんだろう?」
「ルールや問題をどう調整すれば、知識量の差が出やすくなるんだろう? あるいは出にくくなるんだろう?」
「そもそもクイズの"実力"って何??」
こうした疑問はクイズという遊びの実態に関わっており、非常に手強いです。もっともらしい結論をすぐに得るのは難しいでしょう。
この2つは、世界的なTCGである『マジック・ザ・ギャザリング(以下Magic)』のゲームデザインで使われているものです。
はじめに、Magicの首席デザイナーであるMark Rosewater氏が執筆した記事を引用しますので、ぜひ読んでみてください。
分散性・選択性とは何か?
対して選択性 [choice] とは、プレイヤー自身が「こうしたい!と選べるかどうか」という尺度です。「選択性が高い」要素が増えるほど、プレイヤーが試合展開に介入できる度合いが高くなります。こちらの方が、分散性に比べて理解しやすいかもしれません(私はそうでした)。
以降の議論では、これらの尺度を「クイズというゲーム」の枠組みそのものにも、「ルール」「問題」「プレイヤー」といった個別の要素にも適用します。この点がかなりややこしいので注意してください。*2
具体的にどういうことか?
クイズではどうなるのか?
クイズという遊びでキーとなる出題の内容が、そもそも試合ごとに変わります。問題の並び順まで含めると、この「出題」の分散性は非常に高いと言えます。一方で、プレイヤー視点では「出題」の選択性は基本的に0だと言えます。
一応、「プレイヤーが次の問題のジャンルを指定する」というようなルールであれば、低いながらも選択性が生じるでしょうか。
クイズには、Magicや将棋にあるような規格化された統一ルールが現状ありません。
一応「アップダウンクイズ」「7〇3×」などの有名なパッケージは存在しますが、必ずしもそれらが毎回採用されるわけではありません。何なら、「出題はするけど正解数は数えない、みんなで雑談して楽しんで終わり!」とすることもできます。
そうである以上、この「ルール設定」という要素は自由度が高く、高めの分散性を孕んでいると言えます。
ただし、個別のルール(アップダウンクイズ、7〇3×、雑談して終わり……etc)の分散性・選択性が高いか低いかは、カードゲームと同様にルールごとに変わります。たとえば、「1問正解すると他プレイヤー全員のHPを1減らす」と「1問正解すると他プレイヤーから1人選び、その人のHPを1減らす」では、後者の方が分散性も選択性も高くなります。
たとえば日本史問題が早押しクイズで出題されたとき、「対戦相手に歴史が得意なプレイヤーがいるかどうか」「自分が歴史が得意か苦手か」によって、誰がボタンを押して正解するかは変わってくるように思います。全員歴史が苦手なら、「いつも歴史問題なんて答えないけど今日は偶然ボタンが点いた」というケースも生じるでしょう。
このように、基本的にクイズの問題は1問1問が高い分散性を有していそうです。*4
しかし、少し注意が必要な例も存在します。それは、過去に出題が繰り返され定型が固まっている問題……いわゆる「ベタ問」です。
たとえば「なぜやまに……」と聞こえたら、ある程度競技的なクイズに慣れてきた人であれば(全員がそこでボタンを押せるとはいえないまでも)ピンとはくるでしょう*5。「当日の得点状況にも対戦相手の顔ぶれにも関係なく、毎回同じようなところで誰かに押され、正解される」という意味では、ベタ問は毎試合似たような動きを繰り返しやすく、この点で分散性が相対的に低いと言えそうです。*6
何の役に立つの?
ボードクイズでは、試合が始まってしまえば「順番に出題された問題に答える」以外の動きを基本的に取ることができません。そして、最適解は大抵の場合「正解すること」です*9。これがもし「50問を15分で解くペーパークイズ」であれば、「わかんない問題を飛ばす」「後ろから解く」などの動きも取ることができ、多少の選択性が生まれます。
しかし早押しクイズでは、ルールや得点状況を踏まえ、問題に対していくつかの立ち回りを選択することができます(以下の例をご覧ください)。その結果、プレイヤーが主体的に戦局を動かしやすくなります。早押しクイズの各種立ち回りを好ましく思うかは人によって異なると思いますが、まあ一旦それは置いておきましょう。
原因として、ここではクイズの"実力"の大部分を占めることが多い「知識」がほぼ考慮されていないためだと考えられます。"実力"という言葉の意味はだいぶ曖昧ですが、ここでは一旦スルーしておきます。
ただ、あくまで選択性も"実力"の一要素でしかないという点には注意が必要です。そもそも「立ち回りの選択性」をクイズの"実力"にカウントしたいかどうかも、個々人の価値観によって変わってくるものだと思います。
最後に
ぜひ皆さんも、クイズにまつわる様々な分析に、「分散性」「選択性」を使ってみてください!
*1:本記事を書くにあたっては、こちらのブログ記事を大いに参考にしました。
ゲームの「競技性」について:なぜ「海外でも評価されている競技性の高いゲーム」ではなくApexが流行るのか : 永遠よりも彼方から
*2:試合展開への影響力を雑に並べると、大まかに「クイズというゲーム」そのもの≧ルール>問題、プレイヤーとなると思います。たぶん。他にも要素はありますし、厳密にはルール・問題・プレイヤーという要素をさらに細分化する必要があるように思います。
*3:ただし、運要素を増やし過ぎると、確率的には全プレイヤーがその恩恵を均等に受けやすくなり、逆に実力差が出やすくなるという指摘もあります。直感には反している結果ですね。
この件はこちらの動画でも詳しく考察されていますので、ぜひご覧ください。
【麻雀講座】最も実力差が出るルールを考える【天鳳位】 - YouTube
*4:この点は、クイズが遊び以外の機能を有している場面でも同様です。たとえば、講演やセミナーの冒頭でフックとして出題されるクイズ問題は、聴講者の知識を測るためのものだとは限りません。基本的には、間違えた相手の無知を指摘したり、陥りやすい勘違いへの気づきを促したりして、話に興味を持ってもらうために出題されているように思います。
こうした使い方が良いか悪いかはさておき、他にも情報番組や飲み会の「クイズ出して!」など、遊びの場では輝いている問題が全く役に立たないシーンはたくさん起こり得ます。もちろん、逆のケースも成立しそうですね。
これも、クイズ問題1問が持つ高い分散性の例だと私は考えています。
*5:Q.「なぜ山に登るのか」と訊かれ、「そこに山があるからだ」と答えたという逸話で有名なイギリスの登山家は誰でしょう?/A. ジョージ・マロリー という有名なベタ問があります。山ではなく「エベレスト」と訳すのが正しいという指摘もなされていますが、便宜上ここでは古くから親しまれている形で記載しております。
*6:これにも例外があります。たとえば、「過去に聞いたことがない新作の難問たち」で構成された問題群の中で、突然「なぜやまに……」という問題が読まれたらどう感じるでしょう。本当にマロリーが答えだったとしても、「本当にマロリーが答えか?」と迷うのではないでしょうか?
問題群が個々の問題によって形作られているのと同時に、個々の問題の働きや意味は問題群全体の在り方から影響を受けているのだと言えます。
*7:余談ですが、私の友人は「そもそもクイズとカードゲームは戦略性が非常に似ており、以下のような対応を持っている」と指摘しています。
・どんなデッキを構築していくか ≒ どんな知識体系を持っているか、もしくは意図的に勉強していくか
・盤面を踏まえ、ランダムに引いた手札でどう立ち回るか ≒ 得点状況を踏まえ、ランダムに出題された(早押し)問題に対してどう立ち回るか
*8:*7と類似の議論として、「麻雀とカードゲームが似ている」という指摘もなされています。こちらの動画の 2:16:00~2:28:30 頃をご覧ください。
✯*. #神域リーグ/打ち上げ回 ˗ˋˏチームアキレスおつかれさま!ˎˊ˗〖 天宮こころ┊にじさんじ 〗 - YouTube
*9:「正解しない」が最適解になりうるボードクイズのルールを作れば、選択性を高くすることはできます。しかし、それと似たようなルールで早押しクイズをやれば、その早押しクイズの選択性も同様に(もしくはそれ以上に)高くなると考えられるので、考察から除外します。
*10:問題潰しは、疑似的には「出題を1問スキップさせる」行為とも言えます。対戦相手が得意なジャンルの問題を狙えば、その効能はより大きくなるでしょう。これは見方を変えれば、プレイヤー側が選択性を持つことができなかったはずの「出題」への関与ともみなせます。