『選定2級 第1回予想問題』ありがとうございました!
こちらは、クイズの問題文の書き方・直し方、その考え方を学ぶための教材として、私が自身の問題の「失敗例」から作成した設問集です。
多くの方が手に取ってくださったようで、予想以上の反響をいただきました。議論を呼びやすい内容のため炎上しないか不安でしたが、概ね好意的に受け取っていただけたようで何より安心しています。
本当にありがとうございました。
多くの方に手伝っていただいたおかげで、手前味噌ながらよくできた内容になっているとは思います。
『予想問題』全体に関して
検定の形にしたのはなぜ?
『選定2級 第1回予想問題』は、「問題選定の実場面」を想定した練習を行うための教材でもあります。
本書の活用法としては、解説を読む前に一度設問を解いてみるのがおすすめです。共同で開く企画や大会の準備では、修正の理由をコメントして他の人にも納得してもらうことが大抵セットで必要になります。そうした選定の実場面を想定した言語化の練習にも、ぜひ本書を役立てていただければと思います。
— Fe/Hirose (@903Fe_Qron) 2022年5月28日
「言語化」という行為は、クイズに限らず非常に疲れるものです。不要ならわざわざ言語化をしないこともあるでしょう。「既に価値観をなんとなく共有している仲間が相手で、言語化に労力を割くよりもやってみた方が早い」ということは往々にしてあり得ます。
しかし、実際の問題選定の際には、その「なんとなく共有していた価値観」を詳細にすり合わせる必要があります。ミスリードや出題ミスへの「気づき」に個人差があったり、出題方針の解釈が互いに食い違っていたり、意見が対立したりするためです。そんなときに「こう直したい」という要求を通すには、自分の考えを他人に理解してもらえるように共有することが最低限必要です*2。
また、他者に伝える上では②の「自分の考えを深められる」も大事になってきます。そもそも自分がちゃんと理解していなければ、他人に考えを共有しようにも、論点をわかりやすく整理することは困難でしょう。
言語化に着手してみると、自らが理解を曖昧にしていた論点が嫌というほど浮かび上がって来ます。
自らのレベルアップのためにも、ふと「なんでだろう」と感じたときなどに、適度に取り組んでもらえると嬉しいです。
「クイズ界は今もmixiを使っている」ということがときどきネタにされていますが、これは「クイズの込み入った話を価値観や前提を共有していない人にも見せられる水準の文章で書くのが大変だから」でもあるのではないでしょうか*4。あくまで趣味に取り組む一個人の行動として、「曲解のリスクを避けて文章をオープンにしない」という選択を取ることも、ある種自然なことであるように思います
だからと言って技術やノウハウを秘匿し続けていいというわけでもないのですが、またこの話は別の機会にでも。
「題意を読み取れ」というタイプの問題は検定に適さないのでは?
なぜ他人の出題意図を汲み取ることが問題選定に必要なのか?理由はいろいろありますが、私が最も大事だと思うのは「改悪のリスクを減らすことができる」ことです。
しかし、その一段上の問題選定を行っていくためにも、「なぜ提出者はこの形にしたんだろう」ということを考え、見抜くことができるようになるといいなと思います*7。
また、これはあくまで「題意を汲み取ったうえで適切かどうか判断する」という話ですので、どんな原作も100%活かされるというわけではありませんし、保証もできません。互いの考えをうまく言語化したうえで、議論できると良いかなと思います。
個別の設問に関して
第1問(2)の解答案紹介
……確かに!正解としました。修正前の問題文は以下のようになっていたのですが、情報を詰め込み過ぎた感が強く、分かりづらいですね。
芸能界きってのポケモンカード好き・謎解き好きとして知られ、それぞれでCMと冠特番を持っているイケメン俳優は誰でしょう?
第1問(5)の解答案紹介
興味深い解答でしたが、今回は△としました。「エド・シーラン」の問題文は以下の通りです。
『+(プラス)』『x(マルティプライ)』『÷(ディバイド)』と、演算記号をタイトルにしたアルバムを出しているイギリスのミュージシャンは誰でしょう?
しかし今回は、指摘内容とこちらの想定との間に、以下のような微妙な違いがあるように思います。
- 指摘された解答案……列挙された言葉の全てに共通する特性がある。没個性ながらも、各項目が均等にヒントとなっている。
- 想定解答案……最後に挙げた言葉が最も重要であり、項目ごとに情報の重みづけが異なる。さらに、最後の言葉によって、没個性だったその前の言葉にもヒントとしての意味付けがなされる。
このように、解答の肝としては「情報の重要度に差がある」ことがポイントであったため、完全な正答にはできないと判断しました。
重要度に差があるとどう違うか?という点に関しては、対策する側の目線が変わるかなと思います。
たとえば、「各項目が均等にヒントになっている」のであれば、一要素目(プラス)だけを聞いて押すことも理論上できそうですよね?あらかじめ知っていれば*9。特に、例示してくださった『プラス』『マルティプライ』『ディバイド』は固有名詞ですので、答え(エド・シーラン)と一対一対応したキーワードではあります。そのため、聞き取った際の判別は難しいものの、押しやすいことは押しやすいです。全体に共通項性があり、1つ目の項目もヒント性を帯びているのだから、競技目線の対策としてそれ(ら)を覚えよう・早押しポイントとしてストックしようという発想になるのだと思います。
一方、「ミルクティー、レモンティー、」「プラス、マイナス、」はどうでしょうか。情報量が無さ過ぎてわざわざ覚える気になりませんよね*10。多くの人がアクセスしやすい題材・難易度だからというのもありますが……。その甲斐(?)もあってか、出題当日時点では初見の問題文となっていたようです。
こうした違いにより、「早押しクイズの場における思考回路」「押しポイントを(準備段階ではなく)その場で導く即興性」が、より引き立った出題となっていたように思います。
第1問⑸への指摘
まあ確かにその通りというか、問題文を読んでみて知識面で面白みや得られるものがあるかというと、そんなにないことは否めません。しかし、この問題は上述の通り「早押しの思考回路や即興性を問う」という機能を備えており、その点で(広い意味で)早押しクイズとしての面白みは有しているのではないかと思います。
どういった面白みを優先するかや良し悪しは、一概に「何が正しい」とは言えません。個人の好みによっても、問題群としてどういった力を測るかという方針によっても変化するからです。一応ひとつ言えるのは、「abc the18thでは早押しの思考回路や即興性も重視された」ということではあると思う、ということでしょうか。
まあ、全方面の面白みを備えているのに越したことはないのですが、なかなか難しいことです。
第3問の解答案紹介
これもなるほどと思いました。確かに、ミスリードを防ぐには、文章・構文面のケアのみでなく「意味内容のガイド」をつけることも有効です*11。abc the19th「ハンダ」などに似た発想ですね。
環境への配慮から鉛(なま/り)を含まないものが主流となっている、金属同士の接合に利用される合金は何でしょう?
第6問の解答案紹介
- そのまま使える=実用的である問題をそろえようとした結果、よく出がちな構造などを用いる問題が多くなった。それは目的とする大会の一部分を取り出し、拡大したにすぎず、再現度の方が犠牲になったということ。
- 現代短文クイズ(あるいは予想されるABC7の問題群)の出題規範を意識する過程で、問題群として出題規範を再現するよりも、一問一問のモジュールごとに意味を持たせるという行為。問題群全体としてよりもモジュールごとの再現性を重視した結果、本番とは毛色が異なる問題群になり、押しごたえやプレイングが本番っぽくないものになったと感じた。
この設問で取り上げた「対策企画の方向性」というものは、たとえば皆さんが企画に参加した際・問題集を購入した際にも、違いを感じたことがあるのではないでしょうか。
こうした対策企画は、主催者が何を対策したいかによって、大まかに2タイプに分かれると思います。
- 1問でも当てに行く
- 全体の再現度を近づける
その他の質問
本書や本ブログが皆さんの困りごとの解決につながり、作問がより楽しくなるための助けになれば幸いです。
*1:https://forms.gle/nYewN3W1DxErNJBU8
*2:もちろん、伝える表現や姿勢にも気を付けた方がよいでしょう。相手の仕事に対して一旦は異を唱えるわけですし、何なら不適切なのは自分の方かもしれないわけで……
「その意見をその表現で表明すると、他人からどう思われるか?」ということを考えられると良いのかなと思います。
*3:出題傾向の内容や違い、歴史、戦術論、早押しのテクニック、勉強法、ルール設定の仕方、大会開催ノウハウ、イベント設計、サークルの運営、クイズの続け方と付き合い方……など。作問や問題選定の技術に限ったことではありません。
*4:ここで言う「前提」には、「この筆者はこういう性格で、ときどき口が悪くなることがある。でもクイズには真摯だ」といった認識も含まれます。
*5:ここでいう「面白み」「面白い」の基準はTPOによって変わってくるため、ふわふわした話で申し訳ありませんが今回は定義しません!
*6:経験則として、作問者のことをナメている人はうっかり見落としやすくなります。
*7:実用レベルにするためには「読んで瞬時に見抜く」程度の水準が必要です。選定を担当する問題が50問あったとして、1問当たり5分も「題意を考える」ことだけに使うわけにはいきませんので……。ただし、「全部を瞬時に見抜くのが難しいから人数でカバーする」という方法で解決を図ることは可能です。
*8:ウィットに富んでいるとか少し諷刺があるとか、オチがあるとか、解説すると野暮なものを自分で書くのは恥ずかしいということも有り得ます。そこをあえて作問者に書いてもらうか、ユーモアを磨いて汲み取れるようにしておくかは皆さんにお任せします。
*9:厳密には、「これは列挙型の問題文だから、この後にも共通項性のある情報が続く」という分析が、「押せる」という判断の前提になってきます。
*10:とはいえ、「プラス、/」が既にエド・シーランとドライバーの2択になってしまった以上、たぶん皆覚えているのでしょうが……。
*11:この問題文からは、なんとなく「存在する」とは続かなそうだな~という印象も受けます。割と感覚的ですが、理由としては以下の3つがありそうです。
・「~には存在する」よりも「~に存在する」と言いそう
・「存在する」だと音数的にしっくりこない
・そもそも「存在する」ではなく「~では反則として規定されている」などと言いそう
*12:より厳密には、1.と2.がそれぞれさらに2通りの傾向に分かれ、計2×2タイプがあると言えます。