903Fe準備室

クイズをより楽しめる(かもしれない)ヒント

対策企画の4タイプ

以前『選定2級 第1回予想問題』補足記事の中で、「あるクイズ大会の "対策企画" って一口に言っても、色々あるよね」というような話をしました。

この議題について、友人のシマダが解説記事を寄稿してくれました!こちらのブログで公開したいと思います。
対策企画を打たないにしても、クイズを競技として捉えた際の在り方を理解する上で、とても助けになるものだと思います。1万字を超えており読みごたえがありますが、皆様の参考になれば幸いです。

◇ ◇ ◇

クイズプレイヤーは、特定の大会で活躍することを目指して、「対策企画」を開くことがあります。
 「対策企画」とは、本番の大会を想定したルールや問題を準備して行う、いわば練習試合のようなクイズ企画を指します。多くの「対策企画」は、仲間うちやクイズサークル内で完結する小規模なものですが、中には 50 人や 100 人もの参加者を集めるような、ほとんど大会と変わらない規模のものも。
 今回は、そんな「対策企画」を使用問題の性質から分類し、「よりよい対策企画の作り方」を考えてみましょう。

A. 「知っているかどうか」と「早く押せるかどうか」
 現行のクイズ大会で王道の形式といえば、「ペーパークイズ」と「早押しクイズ」の 2 つです。
 一般に「ペーパークイズ」といえば、問題用紙に印刷された問題文を読み、解答用紙に答えを記入する形式のクイズを指します。この「ペーパークイズ」では、問題文を最後まで読んでゆっくりと解答することができるので、単純に自分がその知識を持っているかどうかが焦点となっています。
 対して「早押しクイズ」とはどんな形式なのかをあえて回りくどく説明すると、音声形式で出題される問題文を耳で聴き、自分が答えたいと思った段階で手元のボタンを押して音を鳴らし、一番最初に押せたら解答権が得られる形式のクイズ……といったところでしょうか。この「早押しクイズ」では、他の人より先に解答の意思を表明しなくてはならないので、知っているか・知らないかだけでなく、いかに少ないヒントで答えを出せるかが時に肝心となります*1
 まとめると、「ペーパークイズ」に強くなるためには「知っているかどうか」に重点を置いた対策が必要で、「早押しクイズ」に強くなるためには「知っているかどうか」に加えて「早く押せるかどうか」に重点を置いた対策が必要、ということになります。

B. 「1 問単位」と「全体」
 ひとが「対策企画を開いてよかった」と最も強く思う瞬間――それは、自分の準備した対策問題が本番でそのまま「的中」したときではないでしょうか。ペーパークイズにおいて、過去に自作した問題が 1 問紛れ込んでくれたら、確実に 1 点を増やすことができるでしょう。早押しクイズにおいて、以前作ったことのある問題がそのまま読まれたのなら、解答権を競り落とせる公算はかなりのものとなるでしょう。対策企画を準備するプレイヤーの多くは、自作問題の「的中」を少なからず夢見ているものです。
 しかし、対策企画の作り手の中には、1 問 1 問の的中にはそこまで拘泥していないプレイヤーも存在します。大会の運営サイドが事前に公開してくれる「例題」「問題コンセプト」、あるいは「出題者が過去に発行した問題集」などのヒントを熟読し、当日の問題群の全体像を再現することに心血を注いでいるのが彼らです。一体何の目的があって、こんなことをしているのでしょうか。
 それは「本番の問題群全体がどのようなバランスで運用されているのか」を知ることにあります。具体的には……

  • どのようなジャンルが多く・深く出題されそうか
  • 知識や事物がどのような切り口で問われそうか
  • だいたい何文字くらい問題文を聞けば、核となる情報が明かされそうか

 対策企画という形で本番の問題群の再現を試みることにより、「作問者の出題思想」を体得すること、それが彼らの目標です。本番の出題者を身体に宿すことができれば、本番の出題者と同じ視点で日々のクイズや生活を見つめることが可能となります。そうして過ごしていくうちに、問題群に最適化された知識体系・プレイスタイルへと自分のクイズが調整され、一番仕上がった状態で当日を迎えることができます。
 対策企画といえば「1 問 1 問の的中」を狙って作られるものだ、と思いたくなるところではありますが、実際にはそれだけでなく「問題群全体への適応」を狙って作られるものも存在します。



 A の観点から対策企画の目的意識を分類すると、「知っているかどうか」と「早く押せるかどうか」に二分できそうです。ここに「知識量重視 vs. 速度重視」の対立軸を見ることができます。
 B の観点から対策企画の目的意識を分類すると、「1 問 1 問の的中」と「問題群全体への適応」に二分できそうです。ここに「個別重視 vs. 全体重視」の対立軸を見ることができます。
 この 2 つの観点を組み合わせて対策企画を分類すると、2×2=4 通りの枠組みが作れそうです。

  • 「知識量重視」で「個別重視」
  • 「速度重視」で「個別重視」
  • 「知識量重視」で「全体重視」
  • 「速度重視」で「全体重視」

 いま、この 4 つのタイプに名をつけた上で、おおざっぱな説明を加えてみます。

1-1. ペーパー型 (「知識量重視」で「個別重視」)
 特定の問題がペーパークイズで答えられるようになることを目標とする対策企画。
 「それが問われるとしたら、何が核心情報 (いわゆる後限定) として据えられるか」に目を向け、1 問でも多く的中させることを目指す。

1-2. 押しポイント型 (「速度重視」で「個別重視」)
 特定の問題が早押しクイズで押せるようになることを目標とする対策企画。
 「それが問われるとしたら、どのような文字列・言葉・フレーズ・情報を含む問題文となるか」に目を向け、1 問でも多く的中させることを目指す。

2-1. ジャンル型 (「知識量重視」で「全体重視」)
 本番の「題材選定方針」を再現することを念頭に、ジャンル配分や題材のチョイスを本番に寄せた対策企画。
 「本番の作問者が、どのような題材を、どのくらいの量・質で出題しようとしているのか」を究明し、本番で好成績を残すために必要な知識セットを適切に準備できるようにする。

2-2. 期待値型 (「速度重視」で「全体重視」)
 本番の「押しやすさ (押しにくさ)」を再現することを念頭に、問題群の文体・難易度の分散・ジャンルの分散などを本番に寄せた対策企画。
 「知っている問題はだいたい何問に 1 問出題され、だいたい何文字くらいまで聞くことができるのか」を究明し、本番で行うべき早押しクイズの立ち回り方を適切に準備できるようにする。

 このように、対策企画には「ペーパー型」「押しポイント型」「ジャンル型」「期待値型」の 4 タイプがある、というのが今回の主張です*2*3

対策企画には実は4タイプくらいあります(注:キャプションはFeより)



 それでは、本番の大会でどうしても勝ちたいあなたは、どのタイプの対策企画を開けばよいのでしょうか。
 4 タイプを導入するにあたって最初に挙げた、「知識量重視 vs. 速度重視」「個別重視 vs. 全体重視」の 2 つの軸について分析しながら、それぞれのタイプの特徴を考えてみましょう。

A. 「知識量重視 vs. 速度重視」
 ここでは「準備の手間」「プレイングの有効範囲」の 2 点から検討してみましょう。

A-1. 準備の手間: 知識量重視 < 速度重視
 「知識量重視」の企画は比較的少ない労力で準備できます。なぜなら題材を的中させた時点で「ペーパークイズで書けるようにしたい」という目標はほぼ達成される以上、一生懸命問題文を当てにいく必要まではないからです。しかも「どんな題材を選ぶか」という唯一の関門についても、大会運営が事前公開している「本番のジャンル表」、もし無かったとしても「傾向が似た大会の問題集」や「出題者が過去に作った問題集」などを的中のヒントに使うことが可能です。
 ですがこれが「速度重視」の企画ということになってしまうと、「どんな題材が出題されるか」に加えて「どんな切り口で出題されるか」「どんな順番で情報が提示されるか」まで当てにいかなくてはなりません。さらに、こうした問題文の作り方は作問者個人の (言語化すらされていない) 感性に寄るところが大きく、ジャンル表や過去問などの公開情報とにらめっこしたところでなかなか当てられるものではありません。素材選びさえ間違えなければよい「知識量重視」の企画と較べると、完成形まで寄せに行く必要のある「速度重視」の企画は、より準備に手間のかかるものと言えるでしょう。

A-2. プレイングの有効範囲: 知識量重視 < 速度重視
 「知識量重視」の対策が実を結ぶ場面は限られています。具体的には「ペーパークイズ」「少人数の早押し」「超難問による早押し」など、対戦相手に解答権を奪われてしまう可能性が 0 または 0 に近い場面だけです。このような場面では、答えを知っていさえすればよいので、その問題の題材に見覚え・聞き覚えがあれば、たとえ問題文中のほかの情報を知らなくとも加点が期待できます。
 ところがクイズの大会には、平易な問題を大人数で押し合うラウンドや、強者揃いの決勝ラウンドのような、解答権を取ることの難しい場面がつきものです。このような場面ではまともに問題を最後まで聞かせてもらえないので、答えを知っているだけではなかなか太刀打ちできません。ここを解決するためには「速度重視」の対策が必要となります。「速度重視」での対策を積むと、ただ答えとなる素材を知っているにはとどまらず、その知識を実際に出題される形で認識できます。最速で押す準備ができているとなれば、激しい押し合いのなかでも競り勝つことがある程度は期待できるでしょう。

 以上の議論を総括すると、次のようになります。
 「知識量重視」の企画は題材さえ当たればいいので、準備は比較的容易なのですが、解答権争いが緩い場面でないと成果が出ないことがあります。反対に「速度重視」の企画は問題文の形状まで当てにいかねばならないので、準備は比較的大変になりますが、早押しの競争が熾烈になっても耐えうる武器を作ることができます。

B. 個別重視 vs. 全体重視
 ここでは「準備の手間」「対策成果の振れ幅」「プレイングの再現性」「対策の応用性」の 4 点から検討してみましょう。

B-1. 準備の手間: 個別重視 < 全体重視
 A-1 と同じテーマですが、ここでは「個別重視」と「全体重視」を比較します。
 「個別重視」の企画は、準備の手間が比較的少なくて済むと言えそうです。1 つ 1 つの問題が的中しさえすれば、全体のバランスがかなり歪になったとしても、「個別重視」の対策企画としては成功と言えます。そのため、ジャンルの配分や全体的な押しやすさの再現にはそこまで気を使わなくて済みます。
 しかし「全体重視」の企画は、1 つ 1 つの問題が当たればよいというものではなく、問題群として見たときの顔ぶれまで再現しなくてはなりません。問題群全体としての性格というものは、問題群を構成する数十問や数百問 (問題群によってはそれ以上の数) を概観して初めて浮かび上がるものであり、「この 1 問を加えたら、問題群全体の印象はこんなふうに変化するだろう」などと予見することは至難の業です。そもそも、「全体重視」と言っても対策企画である以上、本番では絶対に出ない問題を何問も何問も繰り出すわけにはいかないので、ある程度は「当てに行く」必要があるでしょう。こうなると「全体重視」の企画は「個別重視」の企画にも通ずる準備をある程度こなした上で、全体調整という面倒な作業を飲む必要があります。
 A-1 と合わせると準備の手間は「知識量重視 < 速度重視」「個別重視 < 全体重視」ということになりますから、知識量重視・個別重視の「ペーパー型」が一番簡単に準備できて、速度重視・全体重視の「期待値型」が一番手こずるという具合になります。残る「押しポイント型」と「ジャンル型」はどちらが作りやすいかについては、ひとまず保留といたします*4

B-2. 対策成果の振れ幅: 個別重視 > 全体重視
 「個別重視」の企画、つまり 1 問 1 問を的中させるような対策方法は、当たるか当たらないかがすべてです。むろん問題が的中すれば大きいですが、的中しなければ得点にはつながりません。しかも、対策とずばり同じ問題が出なければ本番で加点できないので、「対策企画と同じジャンルだが題材が違う問題」「対策企画と同じ視点で作られたがジャンルが違う問題」のようなニアミスをしてしまうと、なかなか部分点をもらうことができません。それでも、自分で作った問題というものは意識に強く残りますから、もし的中したときには高い効能を発揮します。総じてハイリスク・ハイリターンな対策方法と言えます。
 これに対し、「全体重視」の企画、つまり本番の問題群がだいたいどんな感じなのかを理解しようとする対策方法は、個別の問題が当たらなくても成果を発揮してくれます。これは、「個別重視」の対策企画には「その準備自体のなかで直接役に立つカードが手に入る」という性質があるのに対し、「全体重視」の対策企画には「企画後の対策効率を引き上げてくれる」という性質があることが関係しています。「全体重視」の企画を開くと、「本番に向けてどのような準備をすべきか」「本番で何をすべきか」が身体でわかってきます。それに基づいて本番までの残り期間で鍛錬してくることで、対策企画と類似の問題、隣の知識なんかにも対処できるようになるのです。このように、ジャンル全体、出題範囲全体が得意になり、ふだんの学習効率がまんべんなく上がる「全体重視」の企画ですが、その代償として 1 問 1 問を大事にする意識がどうしても疎かになってしまうあたりが悩みどころです。確かにその問題がずばりと当たらなくても、得点できるチャンスが幾分か残されはするのですが、それでも「個別重視」の対策でその問題をピッタリと当ててきた他の参加者よりも早く正確に答えることは望めません。総じて「全体重視」はローリスク・ローリターンと言えそうです。

B-3. プレイングの再現性: 個別重視 > 全体重視
 「個別重視」の対策企画を開くと、極めて使い勝手のよい武器が手に入ります。対策問題と同じ後限定のペーパー問題には同じ答えを記入すればよいし、対策問題と同じ前フリの早押し問題には同じ答えをレスポンスすればよいのです。また、このことは企画者当人だけでなく、対策企画に参加してくれた仲間たちにもあてはまることです。仲間の対策企画が自分にとって有用だとさえ確信できれば (詳しくはこの後の B-4 で書きます)、対策企画の問題たちを吸収し、その成果を壇上で容易に発揮することができるでしょう*5
 一方、「全体重視」の対策企画の効能は、そのジャンルにちょっと詳しくなるとか、特定の類型の問題文にちょっと鼻が利くようになるといった一見あいまいなものでしかなく、「同じ問題に同じ答えを返す」という決まりきった手順に頼って得点することはできません。先ほどの B-2 で「全体重視」の企画の性質について「完全に的中しなくても得点のチャンスがある」と分析しましたが、その得点のためには自分自身のゲームメイクスキルによって、対策の成果を日々の学習や当日のプレイングへと「応用」する必要があります。得られた武器からどれくらいの成果を引き出せるかがその主の力量に依存しているとなれば、対策の成果をほかの人に分かりやすく共有することもむずかしいと言えます。包み隠さずに言ってしまうと、参加した企画がどんなに本番っぽいものであったとしても、本番とまったく同じ問題が含まれていないのなら、参加するだけで当日の得点を 1 点 2 点と増やせるなんてことはありません。何がどのくらい得られるかは参加者次第となると、対策企画に来てくれた仲間に報いるにも一工夫が必要になります。

B-4. 対策の応用性: 個別重視 < 全体重視
 「個別重視」の対策企画には、企画者当人が抱く特定の目的意識に強く引っ張られやすい、という特徴があります。極端な例になりますが、あなたが「生物学にあまり詳しくないから、生物学の問題に触れておきたい!」と思ったのなら、本番の大会に出されそうな生物学に関するクイズだけを 50 問なり 100 問なり作って、「個別重視」の対策企画としてリリースしたっていいわけです。そうすればあなたは所期の目的を達成できるでしょう。しかし、生物学のクイズに強くなったところで、生物学以外のクイズにはそんなに強くなれません。それに、対策企画に参加してくれるあなたの仲間にとっては、生物学の問題に興味がない限り、そんなに対策にはならないかもしれません。ここまでの例は少ないにしても、とにかく「個別重視」の企画を構成する問題は「あなたがいま欲しいカード」に偏在するきらいがあります。
 これに対して「全体重視」の対策企画を作ろうと思ったなら、本番の問題セットがどのように組まれているのかを考え、そして再現する必要があります。この場合、先述の「生物学の問題だけをひたすら作る」というような局所的作問は基本許されず、当日の問題群を構成するさまざまな類型の問題を、自分の趣味嗜好や知識体系とは無関係にまんべんなく用意せねばなりません。このようにして準備された対策企画は、特定のカードを増やす手段としては少々遠回りです。しかし、あなたが企画終了後、さらなるクイズの鍛錬を続ける過程で、あるいは当日の大会に参加している過程で、それまで考えもしなかった課題に直面したときに、「全体重視」の対策は真価を発揮します。「全体重視」の対策企画を通じて得たクイズ観や戦略を組み合わせることで、その未知の課題に新しい解決策をぶつけることが可能となるのです。そしてあなたのみならず、あなたが作った対策企画に参加してくれた仲間たちにとっても、「全体重視」の対策企画は一人ひとりが新規の課題をあぶり出すことのできる、またとない実践練習の機会となるのです。

 以上をまとめると、「個別重視」の企画は、問題が的中したときのラッキーをわかりやすく最大化する対策方法であり、企画者当人がいま意識している課題に特化したものとなる傾向にあります。一方、「全体重視」の企画は、問題が的中しなかったときのアンラッキーを器用に最小化する対策方法であり、さまざまな課題への応用可能性を秘めたものとなる傾向にあります。

 

 ここまでの議論をもとに、対策企画の 4 タイプについて検討してみると、次のようになります。

1-1. ペーパー型 (「知識量重視」で「個別重視」)
 「私はペーパークイズでこういう問題が書けるようになりたい」という対策意識に基づき、1 つ 1 つの題材の的中を目指す。
 ペーパークイズや少人数早押し、難問早押しなど、解答権争いのゆるやかな場で上振れを狙う。ペーパークイズで 1 位を取りたい人、ペーパークイズのボーダー下から何とか抜きん出たい人、早押しクイズでほかの人が知らない問題を取りたい人などにおすすめ。
 1 問 1 問の題材さえ当たればよいので準備は一番簡単。得意ジャンルの問題だけ作り続けてもよいし、苦手ジャンルだけ集中的に作るのもあり。対策企画さえ打っておけばすぐに成果が出る点もお得。そして何より「こんな問題が出そうだな」「こんなのが出るかもしれないな」などと予想することそれ自体が楽しい。対策問題が当たったのなら「この問題が出た!」と喜べばいいし、外れたとしても「こういう問題を作ればよかったのか!」と発見を持ち帰ればよい。「ペーパー型」の対策企画を作ることには、「知識のやりとり」としてのクイズにおける最も基本的な楽しみが詰まっており、総じて「自分だけの勉強ノートを作る」という趣がある。
 気をつけなくてはいけない点は、「欲しい知識を手に入れる」以外の目的にはアプローチしづらいこと、単独正解欲しさにマニアックな問題を当てようとすると失敗する確率が高いことなどが挙げられる。覚えづらい問題・企画者目線で出したい問題が比較的多く混じるタイプの企画なので、ほかの人にとってはそこまで覚えやすくなく、企画に参加したライバルにきっちり暗記されてしまうことも意外と少ない。ただ、せっかくの的中問題を仲間が覚えていなかったときは少しがっかりする。

1-2. 押しポイント型 (「速度重視」で「個別重視」)
 「私は早押しクイズでこういう問題が押せるようになりたい」という対策意識に基づき、1 つ 1 つの問題文の的中を目指す。
 多人数・易問での早押しや大会の上位ラウンドなど、解答権争いの激しい場で上振れを狙う。早押し強者同士で最後に差をつけたい人、早押しが出遅れがちで自分だけの押しポイントが欲しい人、答えは簡単だが押しポイントで差のつく問題を取りたい人などにおすすめ。
 題材のみならず問題文まで的中させねばならないが、1 問 1 問のことだけを考えていればよく、総じて準備の手間はそこそこ。早押しにおけるトップスピードを追求する対策企画であり、企画が完成すればその瞬間に強力な武器が手に入る。企画当日に自分で問読みして問題を耳で覚えれば強く印象に残るはず。狙い通りの問題文で出されないと対策の効力が十全に発揮されないとはいえ、一つの知識をどんなフリで出題しようかとあれこれ模索していれば、多面的な知識を身につけることも一応可能。1.1「ペーパー型」が勉強ノートだとすれば、こちらは「自分だけのフラッシュ・カード」というところか。
 注意点としては、尖った武器を生み出す代償として出題範囲全体の精度がおろそかになりやすいこと、マニアックな前フリを狙いすぎると身を滅ぼすことなどが挙げられる。また、耳で問題を覚えられるのは自分だけでなく対策企画の参加者も同じであり、的中問題を仲間が覚えてくれる可能性は高い反面、的中問題をライバルにきっちり横から取られてしまうことも珍しくない。余談だが、本命の早押しクイズではなくペーパークイズで対策問題が的中してしまうと、「せっかく最速で押せるようにしてきたのに……」と少しがっかりする。

2-1. ジャンル型 (「知識量重視」で「全体重視」)
 「本番の問題セットはどのようなカテゴリーの題材で構成されているのかを理解する」という対策意識に基づき、問題群全体の出題範囲の再現を目指す。
 ペーパークイズや少人数早押し、難問早押しなど、解答権争いのゆるやかな場で下振れを避ける。向き不向き関係なくペーパークイズで確実に成績を残したい人、早押しの武器うんぬんより知識そのものを充実させたい人、早押しで相手の苦手ジャンルを拾いたい人などにおすすめ。
 全体のジャンルに気を使わなくてはならないので準備はまあまあ面倒だが、出題範囲さえ当たればよい点は救い。それぞれのジャンルから適切な題材を選定しなくてはならないため、ジャンル全体にまるごと詳しくなることが可能であり、ほかの大会にも通ずる強さを獲得することができる。1-1「ペーパー型」と関連した話になるが、「何でも知っている人を目指す」という意味では、クイズの稽古として最も原初の姿勢、と言えるかもしれない。総じて「優れた虎の巻を作る」趣がある。
 あらゆるカテゴリーを網羅するということは器用貧乏に陥りがちということでもあり、特定の問題・ジャンルを集中的に極めてきた相手に押し負けたり、深い問題に対処できなかったりすることがままある。また、「ジャンル型」の対策で本番の大会に臨むのならば、対策企画を打って終わりにするだけでなく、対策企画を踏まえてのさらなる知識収集も大切。対策企画の落成に満足し、知識の増強に取り組まないまま本番を迎えてしまうと、「このジャンルが出ることはわかっていたのに勉強不足で答えられなかった……」という悲しい事態に見舞われたりもする。

2-2. 期待値型 (「速度重視」で「全体重視」)
 「本番のゲームはどのくらいの速度感で進行するのかを理解する」という対策意識に基づき、問題群全体の押しやすさ (押しにくさ) の再現を目指す。
 多人数・易問での早押しや大会の上位ラウンドなど、解答権争いの激しい場で下振れを避ける。どんなプレイヤーと同席しても勝ち筋を見つけ出せるようになりたい人、ゲームとしてのクイズを極めたい人、完全に初見の問題を早押しで正解したい人などにおすすめ。
 個別の知識をどう切り出すかを精査せねばならず、しかも問題群全体で難易度や押しやすさの分散を調整せねばならないので、準備には緻密な研究と繊細な肌感覚が求められる。しかし「期待値型」の企画を完遂すると、初見の問題でもどこで押すべきかがわかるようになったり、他のメンツや得点状況に応じて早押しのギアを絶妙に調節できたりと、本番のイレギュラー要素にはとことん強くなる。また、準備を通じて得たタクティクスは、たとえ大きく傾向の違うクイズ大会であっても (果てはクイズですらない場面においても) 発揮できることがある。1-2「押しポイント」型の目的が「トップスピードの向上」にあると言うのなら、こちらの目的は「コース全体でのタイムの短縮」にあると言えよう。総じて「優れた模擬試験を作る」趣がある。
 注意点としては、2-1「ジャンル型」以上に本番で何をするかにかかっている点、「いい企画を作ったはずなのに、どんな能力が向上したのかはよくわからない」という不安に陥りうる点、プレイング面に重きを置く対策企画であるため知識面の増強がおろそかになりがちな点などが挙げられる。企画後は本番を強く意識して実践練習に臨み、プレイングのさらなる洗練に励もう。そして繰り返し気味になるが、4 タイプの中では準備負担が最も重い。そのため、「何人のメンバーで」「どれくらいの期間で」「どれくらいの問題数を」準備するかなど、企画そのものの実行可能性から検討が必要となる。

戦いは「どの企画を打つか」から始まっています(キャプションはFeより)

 以上のように、4 タイプの対策企画には、それぞれ長所と短所があります。
 大切なことは「自分が本番の大会で活躍するためには、どんな対策が必要なのか」を見つめ、自分のリソース (現在の知識量、現在のクイズ力、準備期間、一緒に準備してくれるメンバー etc.……) と相談しながら、適切な対策企画を準備することです。準備にあたっては、ここで挙げた 4 タイプのアウトラインを理解した上で、それぞれのタイプの長所を活かしつつ、それぞれのタイプの短所を補う*6よう意識すれば、あなたの理想とする対策企画にきっと近づけるはずです。

 今後、あなたが対策企画を準備してみたり、誰かの対策企画に参加してみたりするときは、ぜひこの記事の内容を思い出してみてくださいね。

*1:ただし、「早押しクイズ」でも高難度の問題が出された場合なんかは、問題文が最後まで読まれても誰一人押さないでいるということがありえます。こういう場合は、単純に知ってさえいれば解答権がもらえますから、対戦相手にスピードで競り勝つ必要はありません。このような状況の「早押しクイズ」は、誰もが知る問題を我先にと取り合う「早押しクイズらしい早押しクイズ」ではなく、自分しか知らない問題をゆっくりと考えて答えることのできる「ペーパークイズ的な早押しクイズ」と言えます。

*2:ただし、すべての対策企画がこの 4 タイプにくっきりと分類されるわけではありません。むしろ、対策企画を開くからにはペーパーも早押しも全部当てたい、知識も押しも完璧にしたい、というのが対策者の野心ですから、どんな対策企画も、この 4 タイプそれぞれの要素を多かれ少なかれ含んでいると言えそうです。

*3:4 つのタイプはそれぞれが完全に別個なわけではなく、むしろ特定の要素を介してそれぞれ関わり合っていると考えられます。たとえば、2-1「ジャンル型」のコンセプトを実現するにあたって、出題ジャンルの割合を本番の問題群に似せてみると、「4 問に 1 問は得意ジャンルが来る!」「10 問に 1 問は苦手ジャンルが来てしまうな……」といった具合で、題材だけでなく得点期待値まで本番に近くなります。この点で、2-1「ジャンル型」としての企画完成度が高まると、2-2「期待値型」としての企画完成度も高まると言えます。なお、もし対策企画ですべての問題とその出題順が一字一句的中したとすれば、「ペーパー型」としても「押しポイント型」としても「ジャンル型」としても「期待値型」としても最高の対策企画ということになるわけですが、そのような全知全能の対策企画を人間が作れる可能性はほとんど 0 に等しいので、現実的な戦略は自分の目標に合わせてどれかのタイプに寄った対策企画を作るというところになります。

*4:筆者個人の内省では、「押しポイント型」と「ジャンル型」で準備にかかる労力はそう変わらない印象です。ただしここについては、人によってずいぶん感覚の異なるところと思われます。

*5:もちろん、このことはライバルにも当てはまります。自分が苦労して作った対策問題を、当日になってライバルに高速奪取されてしまうことだってあるかもしれません。しかし、当日ライバルになりそうな人を対策企画にあえて招待することにもメリットはあります。それは、ライバルのプレイングを間近で見ることにより、自分の相対的なクイズ力が正確に把握できることです。相手のスタイルや知識量を観察し、参加者全体のレベルと当日のクイズの様相を推測すれば、「当日までに自分は何をすべきなのか」がおのずと見えてくるものです。

*6:たとえば、単純に問題数を増やすだけでも、1-1「ペーパー型」、1-2「押しポイント型」で挙げた「当たらなければ終わり」という弱点をある程度カバーすることが可能です。

「三十年闘争」結果報告/筆記クイズ公開

参加人数: 124名

1R 筆記クイズ1位: 倉門 怜央(83点/100点)

Winning Answer:「黒曜石」

(長野県の和田峠霧ケ峰が産出地として有名な、矢じりなどの打製石器の素材となった黒いガラス質の石を何というでしょう?)

優勝: 倉門 怜央

準優勝: 鈴木 嵩琉

第3位: 須藤 駿

準決勝進出: 萬谷 祥輝
準決勝進出: 渡辺 匠
準決勝進出: 中田 陽介

準々決勝進出: 水上 颯
準々決勝進出: 川田 耕太郎
準々決勝進出: 宮石 陸
準々決勝進出: 上野 李王
準々決勝進出: 林 寛昭
準々決勝進出: 小林 逸人

 

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また、当日の1Rで出題した100問筆記クイズの問題と解答、各種ボーダーを公開します。

1R 百年闘争【問題】

1R 百年闘争【解答】

筆記1位: 83点(前半正解数差)
シードボーダー(5位): 81点(前半正解数差)
2R 3〇獲得ボーダー(9位): 80点
2R 2〇獲得ボーダー(17位): 77点
2R 1〇獲得ボーダー(29位): 75点
2R 通過ボーダー(53位): 69点(連続正解数差)


※10月8日追記
筆記クイズ51番の問題について、出題の不備に関するご指摘をいただきました。
再調査の結果、不完全な調査に基づく出題をしていたことが発覚しました。
1日の結果に大きく影響する内容であり、参加者の皆様に大変申し訳なく思います。この件につきまして、心よりお詫び申し上げます。

本件の詳細と正誤の対応について、上記の「1R 百年闘争【解答】」および問題集に追記致しました。今一度ご確認いただけますと幸いです。

 

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大会にご参加いただいた皆様、誠にありがとうございました。
「何年闘争」になるかはわかりませんが、もし次の機会がありましたら、またよろしくお願い致します。

クイズ大会「三十年闘争」概要

(この記事は大会まで常にブログの1番上に表示されます)


大会名: 三十年闘争

日時: 2023年9月24日(日)

会場: 東京都江戸川区 小松川区民館ホール(JR平井駅より徒歩10分、https://www.city.edogawa.tokyo.jp/e033/kuseijoho/gaiyo/shisetsuguide/bunya/kuyakusho/c_komatsugawa/guide.html

開場: 10時00分

1R開始:11時00分 10時40分

終了(予定):18時30分 19時00分

※スケジュールの再検討を行い、開始と終了の時刻を変更させていただきました。
直前の変更となり、大変申し訳ございません。何卒ご理解のほどよろしくお願い致します。


主催: 廣瀬哲

参加費: 高校生以下500円、大学生以上1000円

見学: 可(参加費と同等の見学費をいただきます)


コンセプト: 主催の30年間に一区切りを付けます

問題傾向: 易~やや難


定員:150人
※1R筆記クイズによる絞りを設ける予定です。

参加資格:制限なし

主催挨拶→こちら

主催紹介→こちら

出題傾向紹介→こちら(例題)

ルール紹介→こちら

関連ブログ記事目次:整備中……

エントリー詳細→こちら

エントリーフォーム・エントリーリスト→こちら

観戦申し込み→こちら

事前チケット購入(Peatix)→こちら

「三十年闘争」ご連絡_9月10日

①開始時刻・終了時刻について

直前の変更となり大変申し訳ありませんが、スケジュールを再検討し、開始時刻を10時40分に、終了時刻を19時00分に変更しました。

変更前:11時00分開始~18時30分終了

変更後:10時40分開始~19時00分終了

特に遠方からご参加くださる方に大変ご迷惑をおかけすることとなり、申し訳ございません。
既に確保した交通手段などの都合で新しい開始時刻に間に合わないという方がおりましたら、事前に 30ytosoquiz[at]gmail.com までご連絡ください([at]を@に変えてメールをご送信ください)。
1R筆記クイズの遅刻受験を検討致します。

 

②チケットページの開設について

Peatixのチケットページを開設いたしました。エントリーを完了した方は、当日までにチケットの購入をお願い致します。

「三十年闘争」Peatixチケットページ

購入の際、各自の参加区分を間違えないようご注意ください。

※エントリーの際、「プレイングスタッフ:可」と多数の方にご回答いただきました。誠にありがとうございました。
諸事情を鑑み、今回は20名ほどの方にプレイングスタッフをお願い致しました。こちらからご連絡を差し上げた該当者の方は、チケット購入の際「参加-採点プレイングスタッフ」の区分を選択してください。

③当日の持ち物について(9/11追記)

当日は、1R筆記クイズの受験のために筆記用具が必要となります。また、会場(小松川区民館ホール)には机がありませんので、クリップボードなども忘れずにご持参ください。
※問題集や本・雑誌などを下敷きとして用いることは不可と致します。何卒ご了承ください。

 

④観戦申し込みついて

直前となりましたが、観戦申し込みを開始致しました。
希望者の方は、下記フォームへの回答とPeatixでのチケット購入をお願い致します。

観戦申し込みGoogleフォーム

「三十年闘争」Peatixチケットページ(②のリンクと同一のページにアクセスします)

「三十年闘争」例題公開

例題を公開します。

今回、同じ40問を掲載したファイルを「筆記クイズver」と「早押しクイズver」の2様式で用意しました。
答えを隠しながら問題を読みたいという方は「筆記クイズver」を、
答えを隠さなくてもよい、もしくは早押しクイズの形で問題に触れたいという方は「早押しクイズver」をご利用ください。*1
 
併せて、以前の記事で書いた「出題傾向と形式」の内容に照らし合わせながら、簡単に補足を行います。

・大まかには「短文基本」という出題思想に立ち、
1問1問の単位では一応「短文基本」の考え方を念頭に置きましたが、問題群を組む上ではあまり意識を置かないことにしました。そのため、全体としては少し(もしくはだいぶ)違った印象を受けるかと思います*2
今回、問題文の文字数はふりがな抜きで「原則70文字以内」としています。これを超えているものは全体の5%以下で、平均文字数は55文字台です。

・「自分に作れる問題」を作ります。
ほぼ手なりで作っており、かなり手癖が出ています。
なお、ジャンル間のバランスは例題であまり再現できなかったので、あまり参考にし過ぎないでいただけると幸いです。すみません。

・「ゲームをデザインすること」
当初考えていた構想があったのですが*3、技術的な問題と、方針そのものを考え直した関係とで、部分的な実現に留まっています*4

・「書き言葉でなく話し言葉で問題文を書くこと」
過去の自分から大きく変えることは現時点で難しいと考え、そこまでは実現できていません。
 

以上、既にエントリーしてくださった方・参加をご検討されている方にとって、参考になれば幸いです。
よろしくお願いします。

*1:ただし、過去に公開した問題集から数問自作を引用しているので、ご注意ください。

*2:参考として、『選定2級 第1回予想問題』第6問もご参照ください。

*3:各プレイヤーの "中間地点" にあるような問題を出題することで、「各自の安全圏にある問題の取り合い」というよりは、「互いの間に置かれた問題の獲り合い」をしてもらいたいと思っていました。

*4:全く放棄したわけではなく、何問かはそうした問題を入れています。ただし、「綱引き」よりは「ビーチフラッグス」に近いかもしれません。

「三十年闘争」エントリーフォーム・エントリーリスト

①参加者の方へ

エントリーは以下のGoogleフォームよりお願いします。
三十年闘争 エントリーフォーム


フォームへ回答を送信した後、ご記入いただいたメールアドレスへ回答のコピーが自動返信される設定になっています。

こちらの自動返信メールの受信を確認できなかった方は、迷惑メールフォルダに振り分けられていないかを確認した後、主催までご連絡ください。
30ytosoquiz[at]gmail.com([at]を@に変えてご連絡ください)

 

②エントリーが完了した方へ

Peatixのアカウントを取得した後、③のエントリーリストへの掲載を確認された方から、以下のイベントページでご自分のエントリー区分に当てはまるチケットをご購入ください。

Peatixチケットページ リンク

事前準備の都合上、チケット購入の締め切りを【9月22日23時59分】としています 大会当日の購入も可能としました。
とはいえ、事前にご対応いただけると幸いです。何卒よろしくお願い致します。

 

③エントリーリスト

こちらからご確認ください。

「三十年闘争」ルール公開

本大会のルールを記載した企画書(暫定版)を公開します。

三十年闘争ルール(9月15日版)

 

今後、一部のルールに調整・変更を行うかもしれません。
あらかじめご了承ください。

 

(9月15日追記)

ルールを一部修正・更新しました。企画書の記載も変更しておりますので、ご確認ください。

変更一覧
・1~4位のシード選手に「3Rの第何試合に出場するか」の選択権が与えられる
・敗者復活2nd stepの判定基準項目に「1st stepの得点」を追加
・準々決勝の対戦相手指名優先度の決定基準に「敗者復活1抜け」「敗者復活2抜け」の違いを追加
・準々決勝で指名されたプレイヤーは、「第何試合として行うか」を選択する
・準決勝の組み合わせ決定を「1R上位から指名」ではなく「準々決勝が終わるたびにくじを引いて決める」に変更
・決勝の誤答ペナルティを「1問誤答で-2点かつ5回で失格」に変更